PEOPLE インタビュー

田村セツコ

あの時の気持ちのままで。

取材日:2005/06/17

私ね、雨の日が好きなんです。ビニール傘越しに見る世界が好きなんですよ。そんな時の散歩は特に楽しいですね。風景が透けて見えるでしょ。あれが好きでうっとりと眺めちゃう。
        
雨の日でもなくても、散歩はおもしろいですよね。ほら、ぺちゃんこの空き缶とか、丸まった針金なんかが道に落ちているじゃない? そういう物って予想もできないような形があって面白いでしょ。それらを拾って、オブジェを作るんです。
        
この間、雨が降った後の道を歩いていると、水溜りにぐちゃぐちゃっとなったチェーンが落ちていたの。チェーンを拾うと先に光る物…。もしや?と警察に届けたらダイヤだったの(笑)。その他にも指輪を拾ったこともありましたね。別に物が拾えるから散歩が好きっていうわけじゃないのよ(笑)。
        
子どもの頃から絵を描くことが好きでしたか?

ええ、好きでしたね。子どもから少女時代にかけて物の無い時代だったから、可愛い服とか欲しい物をみんな絵で描いていました。母の話だとおもちゃなどは欲しがらないで、紙とクレヨンがあれば一日中おとなしかったそうです。モデルはお姫様とか妖精をイメージしてね。絵が無い本には挿し絵を描いたり…。行間から「この人ってどういう感じなんだろう」と想像するのが楽しかったんです。学校の作文にもついつい挿絵を描いて、先生に注意されていました。余白を見つけると飾りをつけたくなるんです(笑)。

 中学校の時は自分で詩集を作って、国語の先生に勝手に提出していました。もちろん絵もつけてね。先生はちゃんと読んで下さって、感想を書いて下さったんですよ。現実逃避のようなものも書いていましたね(笑)。母に叱られると、「本当はどこかに綺麗な優しいお母さんがいて、自分を探しているに違いない」とか(笑)。それから学校の裏庭で
お姫様ごっこをしていました。お姫様のセリフはなぜかいつも「助けてー」
なんです(笑)。私は演出家のように、「はい、あっちから王子様出て来て」とか指図していました。

当時、影響を受けた人と言うと…?

挿絵画家の松本かつぢ先生のペンのタッチが凄く好きで…。高校生の頃にファンレターを書いたらお返事をいただけまして、先生のお宅を訪ねたんです。そうしたら「そんなに絵が好きだったら時々遊びにいらっしゃい」って言って下さって…。かつぢ先生は、私に対するアドバイスとして、少女雑誌に描くんだったら顔は可愛らしい方がいいっておっしゃたの。その後は可愛い顔を描いては、かつぢ先生の所に持って行ってました(笑)。そんなたどたどしいお付き合いでしたけど、家族のように面倒見ていただきました。

私は4人兄弟の長女で父は公務員だから、美術学校に進学というのは考えませんでした。高校を卒業して銀行に就職して…、銀行は居心地良くて本当に楽しかったです。でも一年位で銀行の仕事と絵を描くこととのバランスが取れなくなってきて、結局、会社を辞めることにしました。それに銀行では時間に縛られているから”自由”に憧れていたんでしょうね。でも上司や親からは反対されましたよ。

独立後の仕事は順調に?

最初はかつぢ先生の紹介です。『少女クラブ』や『女学生の友』に小さいカットを描いていたんですが、ある挿絵画家が急病になってしまったことがあったんです。困った編集部の方から「一晩で描いてくれないか」って言われて、ユーモア小説のイラストを描いたんですね。その号が発売されたとたんに、色々な所から速達が届いたんです。あれと同じようなテイストで描いて欲しいと。それをこなしている内に仕事が増えました。でも最初の二年位は大変でしたよ。

家族は当時の私がどんなに大変だったか知らなかったって言っていますよ。だから、遊んでいるみたいに思われているところがありました。当時は、絵を届けに行く時にバスの車窓に疲れた自分の顔が映ると、「こんなことがやりたくて、あんなにみんなが親切にしてくれた銀行を辞めてしまったのか」って胸がチクッと痛むこともありました。でも自分で決めた道なんだから、まぁいいかって(笑)。とにかく無我夢中でやって来ましたね。

その当時、将来的にやっていきたい仕事の希望などはありましたか?

可愛い女の子が出てくる絵を描くことが目標だったので、可愛い女の子が出てくる物語をカラーで描くことができれば大満足なんですよね。当時の仕事は人物無しのカットが多かったですから。でもね、徐々に女の子を主人公にした仕事が増えてきました。とくにお茶目な女の子が主人公だとうれしかったです。

それからもう一つは変なことなんだけど、将来インタビューとか受けれたら嬉しいなって思っていたんですね。それで、ストーリーゲートのプロフィールに書いてあるように、好きな食べ物とか、聞かれもしないのに前々から一覧表作っていたんですよ(笑)。よく雑誌とかに出てるじゃないですか。ああいうのが羨ましくて(笑)。

プロフィールを見ると荒井良二先生に師事となっていますが。

ええ、朝日カルチャーセンターの「僕の絵本塾」という講座に5年くらい前から通っているんです。クラスは常時20人位。若い人ばかりですよ。荒井先生の対応がとても自然で、私も何の違和感も無く、皆さんと一緒に課題をやってます。

荒井先生の授業で凄く勉強になるのは、先生は絵の上では他人の評価はあまり気にせずに自分の感性のおもむくままに描いているみたいです。バランス的には求められているものも入っているんでしょうけどね。過去に人から誉められたものを繰り返すのではなく、常に進化して新しいもので、見る人について来てもらいたいと言うような。そして、「いつだって5歳のこどもになれる」という心の運動をおこたらない方です。

何かを教わるのが凄く好きなんですね。自分のできないことをやっている人は凄く尊敬するんです。それに自分も少し近づくって言うのかな。先生に教えてもらえるっていうのは、もったいない位嬉しいです。学校の先生というのは憧れの職業なんです。昔から学校が大好きで、先生が教室に入ってくると拍手しそうになっちゃうんです。先生のことをスーパースターみたいに思うの。だから一挙手一投足熱心に見ていました。

田村さんはストーリーゲートの『ジューンブライドを祝福するリンゴの花』の時に、どうしても気に入らないところがあると言って長い時間をかけて作品を完成されましたよね。描く時はどんなことを意識して描かれるんですか?

まずは自分が喜べることかしら。見て下さる方に向けて描くのだけど、職業として割り切るのでなく、自分も楽しめて描けるものでないといけないんじゃないかなって。人が「いい絵ですね」って言ってくれたら、「私もそう思います」ってハッキリ言えるものを目指したいです。そこに到るまではまだまだ修行が足りませんね(笑)。

変な質問をしますが、田村さんが今までイラストの仕事をしてくるなかで、プロになれたなって思った瞬間はどんなときでしたか?

どうかな…わかりません。色んな会社と契約してグッズ化したことがあるんです。グッズ製作の時はノルマがきつくて大変でした…。落ち着いて仕事をやりたいのに新作、新作で今思うとちょっとあれは不本意でした。いくつかのプロダクションから「面倒みましょうか」って言われたんですけどね。私が頼みたいのは、仕事が多すぎるから断って欲しいということなんです(笑)。でも、仕事は有難いから断れないんです。結果的に断ったこと無いんですよ。フラフラになって断りに行っても、「じゃあこれ描いてから休んで」って言われたり。更に仕事を頼まれて帰ってきたこともありました。
その時、グッズが売れていますよって言われて、「プロになったのかなぁ」って思ったんですけど…。でもプロという自覚はなくて感覚は19歳の頃の新人のまま、本当に変わらないです。今もあの時の気持ちのままですね、本当に(笑)。

田村セツコ(たむら せつこ) Tamura Setsuko

イラストレーター・エッセイスト
専門:油絵・水彩・エッセイ・創作絵本
誕生日:02月04日生
出身地:東京都目黒区

<経歴>
高等学校卒業後 銀行秘書課勤務。童画家 松本かつぢ氏の紹介でイラストレーターの道へ
<著書/作品> 
わがままなきょじん・おいそがしまじょ・エンゼルがとんだ日・若草物語・あしながおじさん・にんじん・アルプスの少女・ふしぎの国のアリス・少女時代によろしく・恋の魔法・わたしはおねえちゃん・ジェルソミーナ・いらっしゃいませ 他
<趣味(特技)> 
旅行(ヨーロッパ・アメリカ・アジア各地をスケッチ旅行)発明料理・映画・音楽・俳句・読書・歌・トレッキング・健康法・野草・猫・歌舞伎。
<師弟関係>敬称略 
松本かつぢ・猪熊弦一郎・荒井良二 先生に師事
<交友>敬称略
赤塚不二夫・タモリ・荻原葉子・黒柳徹子・熊井明子・水森亜土・和田誠・立原えりか・高平哲郎・中村誠一・三宅榛名・石田 千・荒井良二 他
<青春時代>
勉強のあい間に、絵を描くのが大好き。物の無い時代、紙と鉛筆さえあれば超幸せ経済少女。ラジオの朗読をきき乍ら想像画を描いていた(VERY HAPPY!)。紙芝居、詩集、ドレスも作った。A.ヘップバーンに夢中だった(映画は全部みた!)。
<好きな言葉>
人々の眠れる内に樹々はそよぎ、花は咲き乱れる。(モンゴメリ) 絵が君に恋するように描け(ダリ) 神は何か特別なご計画があって私をこのように作られた(レーナ マリア ヨハンソン)
<好きな本>
J.サンド・H.ヘッセ・S.テグジュペリ・アラン.ヒルティの著作等
<好きな作品>
シャガール・星の王子様・朔太郎の詩・片岡球子の富士山他&すべてのこどもの絵
<好きな場所>
神保町古本屋街・パリ路上カフェ・インドオールドデリー・ひんやり涼しい山の道・図書室・劇場、映画館の暗闇・温室・古いバーのカウンター・波打ち際・バス席、電車席・原宿絵本店(SEE MORE GLASS)


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