PEOPLE インタビュー

蓬田やすひろ

完成は死ぬまでしないわけだから、完成させようなんて思っちゃいけない

取材日:2003/01/03

蓬田さんの絵のルーツについて教えてください。
 
もともと絵は好きでした、小学校のときからずっと。私は基本的に文字を読んだりするのが嫌いだったので(笑)、多くの情報は絵から入ってきた気がします。
幼い頃、枕元にあった背の低い枕屏風。その屏風の破れた場所を隠すためにマッチ箱のラベルが貼ってあった。きっと親父が貼ったものだと思うのですが、その1枚1枚のデザインがおもしろいなぁと…。今から考えると、そういった“見る”ことから、勉強をしていたんだと思う。
 
蓬田さんの絵には、黒と白が印象的に使われていることが多いようですが、何か理由はあるのですか?
 
これも小学生の頃の話になるのですが、北海道の寒い冬の日、雪が降りしきるなかを十数人の托鉢のお坊さんが並んで家をまわる光景を見ました。真っ白な雪の中を真っ黒な袈裟を着たお坊さんが歩いている光景は強烈でしたね。それは、怖いというより、きれいだと思いました。お坊さんの真っ白な肌が寒さで赤くなり、それがピンク色。黒、白、ピンクの色が衝撃的でした。
 
絵を描くことを意識しだしたエピソードなどありましたらお聞かせください。
 
小学校の授業で、先生から校庭に出て絵を描きなさいと言われたのですが、僕は教室に残って、窓から見えた蜘蛛の巣を描いたんです。真中には、色のきれいな架空の蜘蛛を描いて…。最後に、黒板に全員の絵が貼られるのですが、みんな僕の絵を見て笑うわけですよ。でも、先生は僕の絵を「これは抽象画と言うんだよ、蓬田はこういうのが好きなんだよ」と、みんなの前で誉めてくれました。これはうれしかったですね。すごく自信になりました。
 
イラストレーターとして独立されるまでのお話を聞かせてください。
 
商業高校では美術クラブに入っていたのですが、商業美術があってもいいんじゃないかと思うようになりました。それで、高校時代から新聞社主催のコンクール等に出品していたのですが、常に高い評価を頂くことができました。卒業すると、新聞で作品が知られているので、今でいう引き抜きみたいな感じで、北海道の広告代理店にデザイナーとして就職しました。デザイナーでしたが、同時にイラストも描いていました。

いくつかの広告代理店に勤めましたが、北海道では、中央(東京)で決まったパターンのものが送られてきて、それを元にアレンジする仕事ばかり。どうしてもオリジナルの仕事がしたくて、東京に出てきたのです。30歳の時には、友人と二人でデザイン事務所を興しました。何でもやりましたね。チラシからDM、ポスター。もちろん雑用もしました。しかし、このままだとデザインもイラストもどちらも中途半端になると思い、どうしてもイラストでやっていきたくて、33歳でフリーのイラストレーターとして独立しました。とにかく絵に集中したい気持ちが強かったので、独立に対する不安はなかったかな。

 
江戸文化のどのようなところに惹かれますか?
 
特に、江戸の元禄文化が好きなのですが、それは、庶民の中に一番文化が入りこんだ時代だからです。武士社会と庶民とが一体となって作り上げた文化といえます。
また、人間自体がユニークで、発想・想像性が豊かな時代だと思います。同じものを食べて、同じものを着て、同じものを夢見るのが現代とするならば、当時は、自分の仕事に誇りやこだわりを持っていた。そういった生き方に惹かれるのです。
自分はその江戸を自分風にアレンジして描いています。ずばりそのものじゃないんです。江戸文化を通して、自分の想像の世界を表現しています。
 
江戸文化から学ぶものについて教えてください。
 
江戸時代の人や生活にふれると、今の自分の生活を「ああ、そうか、これでいいんだ」と安心して振り返ることができる。時々、これでいいのかなと思うことがあっても、「いや、いいんだ。自分は絵を描くことだけにエネルギーを注げばいいんだ」と。
そうやって一つのことをがんばって生きて終わっていった人々のことを考えると、人生に対する焦りがなくなってくるんですね。昔の人は偉いな、僕は少し贅沢しているなと反省したりして、いろんなことが勉強できるわけです。
 
作家を目指している方々へのアドバイスをお願いします。
 
自分に正直になったほうがいいですね。恥ずかしくても、何を言われても、自分の思ったようなものを描くということが一番大事だと思います。見る人のこと、見る人の視点を考えすぎちゃいけないんだよね。今、自分が描きたいと思うものを、下手でもいいから描く。描いてどんどんストックしていく。それを常に眺める。

きざな言い方になっちゃうけど、完成は死ぬまでしないわけだから、完成させようなんて思っちゃいけない。ご飯のお箸を持つくらい好きじゃないとプロとしてはやっていけないと思います。

 
最後に、ストーリーゲートでの自分の作品について、どのような感想を持たれましたか?
 
自分の絵というより、できあがった一つの作品として、客観的に見ることができますね。不思議な気持ちです。絵だけだと、色が悪いな、ここはこうすればよかったと、自分の絵の反省ばかりなのですが、ストーリーゲートの場合、自分が中心ではなくて、総合的な作品という感じがします。その分、冷静に見られます。そういうおもしろさがあります。物語そのものがすばらしく感じますね。

今回の『雨月物語』は主人公のお坊さんをどういうキャラクターにしようかあれこれ考えました。色白の繊細なお坊さん?それとも、ごつい男?と思ったり…、最終的にはコミカルな感じになりました。最後の方でストーリーには直接関係のない尼さんを登場させたり、いろいろ想像をふくらませて、楽しんで描かせていただきました。

蓬田やすひろ(よもぎだ やすひろ) Yasuhiro Yomogida

1941年札幌生まれ。広告代理店に勤務の後、’74年フリーのイラストレーターとなる。

’60年の毎日広告賞をはじめとする数々の受賞歴を持つ。’88年にはNHKの歌謡プロムナード「恋・京都」や、連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」のタイトル画、ならシルクロード博のポスター制作を手がける傍ら、NHKの第9回古賀賞の審査員を務めるなど幅広い分野で活躍。また、ブックカバー、装丁、挿絵などのイラストレーションでは平岩弓枝作品をはじめとして、多数手がけている。東京デザイナーズスペース会員、日本グラフィックデザイナー協会会員、東京イラストレイターズソサイティ会員。

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